結論:眼科疾患があっても角膜が透明なら献眼することができます
角膜が透明とは、99%以上の光が透過(透きとおること)することです。角膜は、厚さわずか約0.5mmの中に、5層の透明な膜で構成されています。1層目の角膜上皮は、細胞の新陳代謝が活発に行われ、傷が出来ても自然に治りますが、2層目以上に外傷や病気によって混濁(いろいろなものがまじってにごること)すると献眼が難しくなります。
特に5層目の角膜内皮細胞層は、角膜内の含水率(角膜にある水分の割合)をポンプのように一定の割合に調整する働きがあります。角膜内皮細胞の密度は、出生時に約4000と推定され、加齢により減少していき、一度死滅した細胞が再生することはありません。細胞の密度が低下すると角膜が浮腫(水がたまった状態)となり、水疱性角膜症という病気になります。水疱性角膜症では細胞の密度が500~700程度に減少すると発症します。
厚生労働省が発出している角膜移植における提供者適応基準では、全層角膜移植(5層すべてを移植する方法)に用いる場合は、角膜内皮細胞数が2000以上であることが望ましいとされています。
参考文献:アイバンクジャーナル2014 Vol.18 No.3 P44~P55
平成22年1月14日(健発0114第4号厚生労働省健康局長発)
眼科疾患①:白内障
白内障とは、加齢に伴うものと他の病気の合併症、外傷、先天性(生まれつき)により水晶体が白く濁り、視力の低下やまぶしさを感じる病気です。水晶体は目の中でカメラのレンズのような働きをする組織で、外からの光を集めてピントを合わせる働きを持っています。通常は透明な組織ですが白内障では白くにごってしまうため、集めた光がうまく眼底に届かなくなります。
白内障の手術は、現在ほとんどがにごった水晶体の中身を吸引して、そこに眼内レンズを挿入します。にごった水晶体の中身の吸引及び眼内レンズの挿入は、角膜の周りもしくは外側を切開するため、白内障の手術をしても直接的には角膜に影響はありませんが、白内障手術の合併症として角膜内皮細胞の減少があります。角膜内皮細胞は、献眼時には眼科疾患があってもなくても必ず測定されるものであり、白内障の手術を実施したことで献眼できないということではありません。
参考文献:アイバンクジャーナル2018 Vol.22 No.2 P21~P27
アイバンクジャーナル2019
Vol.23 No.2 P16~P21
眼科疾患②:緑内障
緑内障とは、眼圧(房水による眼球内の圧力)が高くなることによって視神経が障害され、視野が狭くなったり、部分的に見えなくなる病気です。房水とは、角膜と水晶体の間と虹彩と水晶体の間を満たす透明な液体で、毛様体から作られ、血管のない角膜等の組織に栄養を与える役割があります。房水の出口である線維柱帯が徐々に目詰まりして眼圧が上昇する場合や眼圧が正常範囲内でも緑内障を発症する場合があります。
緑内障の手術は、房水の通りを良くしたり、新たな房水の通り道を作る手術があります。いずれの手術も角膜を避けて手術が行われるため、角膜に直接的な影響はありません。
参考文献:アイバンクジャーナル2018 Vol.22 No.1 P22~P29
眼科疾患③:網膜剥離
網膜剥離とは、神経網膜が網膜色素上皮から剥がれる病気です。網膜は、カメラのフィルムにあたる眼底に広がる薄い膜組織で、光や色を感じる神経網膜と、その下にある網膜色素の二重構造になっています。
網膜剥離の手術は、強膜(白目の部分)を凹ませて網膜をくっつける手術や、強膜から眼内に非常に細かい器具を挿入して手術する方法があります。いずれの手術も角膜を避けて手術が行われるため、角膜に直接的な影響はありません。
参考文献:アイバンクジャーナル2019 Vol.23 No.1 P32~P35
眼科疾患④:加齢黄斑変性
加齢黄斑変性とは、網膜のほぼ真ん中にある黄斑とその周辺に出血などが起こり視力が低下する病気です。黄斑は網膜の中心部で光を感じる細胞が一番多いところです。日本人に多い滲出型加齢黄斑変性では、慢性の炎症や加齢による血液循環の低下により、通常の血管とは異なる弱く脆い血管(新生血管)から血液成分が滲出することで黄斑に障害が起こります。
加齢黄斑変性の手術は、新生血管をレーザーで焼く手術等がありますが、角膜を避けて手術をするため、角膜に直接的な影響はありません。
参考文献:アイバンクジャーナル2018 Vol.22 No.2 P28~P37
眼科疾患⑤:飛蚊症
飛蚊症とは、視野に浮遊する点状の細かいものや、線維状およびリング状のものがみえる症状です。曇天の空を見たり、白色背景の場合に気になることが多いです。飛蚊症には病的な飛蚊症と生理的(非病的)飛蚊症があります。病的ではない飛蚊症は、加齢等により硝子体内のヒアルロン酸が不均一になり浮遊物が生じ、視野の中に見えるようになります。病的な飛蚊症でないか眼科で検査した結果、異常がなければ定期的に眼科に通院する必要はありません。
病的な飛蚊症では、網膜剥離の場合があり、網膜剥離の手術が行われますが、角膜を避けて行われるため、角膜に直接的な影響はありません。
参考文献:アイバンクジャーナル2020 Vol.24 No.1 P28~P30
眼科疾患⑥:糖尿病網膜症
糖尿病網膜症とは、糖尿病(高血糖)が原因で網膜の細胞に栄養が行き渡らなくなり、網膜の毛細血管から血液が滲出したり、新生血管が作られ、出血してしまう病気です。
糖尿病網膜症の手術は、網膜剥離と同様の手術が行われ、角膜を避けて行われるため、角膜に直接的な影響はありません。
参考文献:アイバンクジャーナル2017 Vol.21 No.3 P48~P55
図:アイバンクジャーナル2018 Vol.22 No.2 P22 一部改変
協力病院とは、献眼(死後に眼球を提供すること)に関する普及啓発活動にご協力頂いている病院様のことです。