NO30 「北落師門」(中国)
今月の「古代人からのメッセージ世界編」は、秋の星座領域に輝く唯一の1等星フォーマルハウトの中国名「北落師門」です。
秋の季節、南の夜空に明るく輝くフォーマルハウトを中国の人は「北落師門」とよんでいました。「北落」とは北の垣根のこと、「師門」とは軍隊の門のことです。この星座の名前にちなんで、中国の古都「長安(現在の西安)」の北に「北落門」と呼ばれている門があったそうです。
さて、中国から見ても南の空にしか見えないフォーマルハウトになぜ「北」という命名がなされたのか不思議に思われるかもしれません。この北は地上から見た方角を意味するのではなく、いて座からうお座までの夏・秋の星座領域を「北方」としていることからきています。
以前にお話しましたが、中国星座では北極星付近に天の支配者である「天帝」の宮殿「紫微宮」があり、ここを中央として、東西南北を定めています。ですから、地上から見ると南にある領域が「北」と名前がつくという不思議なことがおこるのです。ちなみに、フォーマルハウトの上のみずがめ座の領域には、この軍門をまもる天帝の親衛隊である「羽林軍」の星座があります。

NO29  「イシュタルの星」(メソポタミア)
今月の「古代人からのメッセージ世界編」は、この夏、一番星として輝いてきた金星の古代メソポタミアでの名前「イシュタル」です。
 古代メソポタミアは世界で最も古くから天文学が発達した地域です。金星はこのメソポタミアで愛の女神の名前と同じ「イシュタル」という名で呼ばれていました。イシュタルは「冥界下り」の神話で知られています。
死んでしまった息子をよみがえらせるため、冥界へと下っていったイシュタルは、冥界の女王エレシュキガルの怒りをかい、自らも殺されてしまいます。愛の女神がいなくなったことで、地上では子供は生まれなくなり、作物も実らなくなりました。
 これに困った天の神エアは月の女神シンとともにエレシュキガルと交渉し、イシュタルの夫ドゥムジを身代わりにすることで、1年のうち9ヶ月間イシュタルをよみがえらせることに成功しました。(これにより、作物の実らない3ヶ月の冬の季節が生まれました。)
この神話は現在知られていること座のオルフェウスの神話とおとめ座の神話のルーツと考えられています。
ちなみに天文学の発達が遅れていたギリシャではもともと宵の明星と明けの明星を別の星と考えていました。三平方の定理で有名なピタゴラスはメソポタミアの天文学を学ぶことにより、2つの星が同一の星であることを確認し、バビロニアにならって、愛の女神の名前と同じ「アフロディーテ」と命名しました。これがローマに伝わり、現在の金星の英語名「ビーナス」となったのです。

NO28 「瓠瓜」&「敗瓜」(中国)
今月の「古代人からのメッセージ世界編」は、現在のいるか座の領域にある中国の星座「瓠瓜」と「敗瓜」です。

中国星座の世界は北極星付近に宮殿を持つ「天帝」の支配下にあり、今回紹介する「瓠瓜」「敗瓜」は、その天帝の所有する果樹園にあたります。果樹園のウリで、よく熟れて食べごろなのが「瓠瓜」、熟れすぎて腐ってしまったのが「敗瓜」とされています。星空で眺めてみると、整った星の並びで目立っている「瓠瓜」に対して、くずれた形で地味な「敗瓜」はいかにも腐った果実のようで、好一対の星座といえます。
この天帝の所有する果樹園が、スーパーモンキー孫悟空の活躍する中国の古典「西遊記」に登場しているのをご存知でしょうか?(物語の中では瓜畑ではなく桃園となっていますが、おそらくこの星座がモデルなのでしょう。)孫悟空が三蔵法師に従って天竺の旅を始める前、天の世界で大暴れしていた時のことです。孫悟空は、天帝からこの果樹園の管理を任されていたにもかかわらず、役目を忘れ、勝手に果樹園の果物を食い散らかしてしまったのです。
そう考えて星空を眺めると「敗瓜」が孫悟空の食い散らかした果物の残骸に見えてくるから不思議です。もしかしたら、西遊記の作者、呉承恩は、星空を眺めながら、この物語を作り出したのかもしれません。

NO27 「河鼓座」(中国)
今月の「古代人からのメッセージ世界編」は七夕にちなんで、アルタイル(わし座α星)付近の中国の星座「河鼓」です。

夏の夜空を南北に横切る天の川、この天上の大河によって引き裂かれたカップルの星、牽牛星と織女星にちなんだエピソードは、我が国を含め、東アジアで最もポピュラーなお話と言っても過言ではないでしょう。こうしたことから中国の星座図にも当然、ベガ(こと座α星)の位置には「織女」の星座、アルタイルの位置には「牽牛」の星座があると思われるかもしれませんが、ベガの位置には確かにベガの位置には「織女」の星座があるのですが、「牽牛」があるべきアルタイルの位置は「河鼓」という不思議な名前の星座となっています。
古い時代の記録をみると、七夕行事の織女の恋人の星の名称はこの「河鼓」なのです。「河鼓」とは「天の川のほとりの太鼓」という意味です。この星座が作られたころの中国では太鼓は軍隊を進軍させるときの合図となる楽器でした。ちなみにアルタイル周辺が牽牛と呼ばれるようになったのは、牛で田畑を耕作するための鋤が発明される後漢の時代以降のことと言われています。
もしかしたら、七夕のロマンスのルーツでは織姫の恋人の職業は牛飼ではなく、合図の太鼓をたたく役目の兵士だったのかもしれません。

NO26 「アーシュ座」 (イスラエル)
今月の「古代人からのメッセージ世界編」は前回、前々回に引き続き北斗七星を表す言葉で、旧約聖書に登場する天体名「アーシュ」です。

今回紹介する「アーシュ」は旧約聖書に登場する星座の名前です。旧約聖書に登場する天体名は意外と少ないのですが、その中でプレアデス、オリオンと並んで登場しているのが、ヘブライ語でアーシュ(またはアイシュ)と呼ばれる天体です。
アーシュが何を表すのかについて研究したイタリアの天文学者スキャパレリは1903年にその著書の中で、北斗七星のひしゃくの水が入る部分の4星(α星・β星・γ星・δ星)を表すという有力な仮説を唱えました。
スキャパレリはこの説の根拠として、この4星が同じ中近東のアラビアで棺台(葬式のひつぎの台)や担架を表す「ナーシュ」という名称で呼ばれていることと関連付けて、旧約聖書の天体名「アーシュ」の場所を特定したのです。現在、旧約聖書の邦訳はこの説に基づいて、アーシュを「北斗」と訳しています。(アーシュは北斗七星全体でないことに注意)
なお、現在のアラビアでは北斗七星を葬式でひつぎを押す3姉妹としています。すなわち「ナーシュ」の部分がひつぎで、北斗の柄の部分の3星を3姉妹としているのです。古代のユダヤの人たちもこの3星をひつぎに横たわる故人の子供とみていたことが、下記の引用からもわかります。ちなみに旧約聖書の中のヨブ記は紀元前5世紀に書かれたといわれています

あなたはプレアデスの鎖を結ぶことができるか
オリオンの鋼を解くことができるか。
あなたは十二宮をその時にしたがって
引き出すことができるか。
北斗とその子星を導くことができるか。
あなたは天の法則を知っているか。
そのおきてを地に施すことができるか。
(旧約聖書「ヨブ記」第38章31〜32節より)

NO25 「妙見」 (日本)

今月の「古代人からのメッセージ世界編」は日本で使われていた天体名で、能勢妙見山でおなじみの「妙見」です。
今回紹介する「妙見」は仏教信仰からきた天体名で、具体的には北極星及び北斗七星をさしています。
仏教で仏様の世界を表す曼荼羅の中には様々な仏様が描かれていますが、その中に「妙見菩薩」があります。妙見菩薩は元々は北極星を表す菩薩で、人々を災害から守り、幸福にするといわれています。ただ図にあるように、菩薩の右上に北斗七星らしき星の並びを描くことから、北斗七星と北極星をごっちゃにして「妙見の星」とするようになったようです。この右上の星の並び、こぐま座の星の並びにも見えなくもないですが、有名な二重星であるミザルとアルコルらしき星が描かれていることから、やはり北斗七星のようです。
天文学的に解釈すれば、北極星を探す目印の北斗七星をまわりに描くことで、北極星を表したという見方もできますが、それにしては、指極星(北極星を示す2つの星)が外を向いていることからそれも違うようです。もしかしたら、北極星を含むこぐま座の星の並びをベースにつくられた菩薩のシンボルマークが、近くでより目立つ北斗七星の星の並びに置き換わっていった過程で、この混同が始まったのかもしれません。
ちなみに妙見菩薩の信仰は7世紀に朝鮮を経由して日本に広まり、真言宗や日蓮宗の中で深く信仰されてきたようです。また、能勢妙見山は1605年に日蓮宗の僧侶「日乾」が、現在の場所に自らの彫刻した妙見菩薩を祀ったことが始まりとされています。


NO24 「(こう)・斗柄(とひょう)・北斗」(中国・日本)
今月の「古代人からのメッセージ世界編」は東アジアで使われていた星座で、現在の私たちにもおなじみの「北斗」です。
現在、おおぐま座の尻尾とお尻の部分となってしまっている北斗七星は天球の回転中心にある北極星を探す目印として、現在でもよく知られている星の名前です。
北斗七星は天の北極付近の星々を神聖視する中国星座では、古くから重要視されていたため、北斗七星を構成するすべての星に固有の名前がついていました。
ただ、「北斗七星」という名称は比較的新しいものです。本来、この星の並びは「(こう)」「北斗」「斗杓(とひょう)」などと呼ばれていました。「」というのはまさに北斗七星を表す漢字です。また「斗柄」というのは、「ひしゃく」形のますの部分「斗」の四星(「魁」ともいう)と柄の部分「柄」の三星(「杓」ともいう)をあわせた言葉です。
言葉の本来の意味から見ると、現在の「北斗七星」という名称は、本来「斗」でない「柄」の部分の三星を含んで「七星」としているところがおかしいような気がしますが、「北斗」と頭に「北」をつければ、なぜか七星全体を現す意味となっていたようです。

NO23 「アルゴ座(Argo)」(ギリシャ?)
今月の「古代人からのメッセージ世界編」はプトレマイオスの定めた48星座の中で最大の星座で、現在は4つの星座に分割されてしまったアルゴ座です。
今回ご紹介するアルゴ座は晩冬から春にかけて、日没後しばらくして、南の地平線近くで南中する巨大な船の星座です。ところが現在の日本付近ではこのアルゴ座の大部分が地平線の下にあるために、巨大な船の全体像をみることはできません。
日本とほぼ同じ緯度にあるギリシャでも状況は同じです。星座が創られた2000年以上前には天の北極が移動する歳差運動により、アルゴ座は若干高い場所にあったというものの、古代のギリシャ人がわざわざギリシャ本国から見にくい場所に独自に星座を創ったというのは少し無理がありそうです。
以前にもお話したことがあるように、ギリシャ人はそれよりも古いメソポタミア・エジプト・フェニキアの星座をとりいれ、自分たちの神話をつけくわえる形で現在使われている多くの星座を完成させたといわれています。アルゴ座には金の羊毛を求めて、イアソンと50人の勇者が冒険するお話がありますが、これはおそらく後でつけられたものでしょう。「アルゴ」という船のネーミングは「速い」という意味で、特定の地域との関連はなさそうです。
実は中東アジア・エジプト・インドといろいろな地域で、この領域を「巨大な船」と見る見方が古くからあったようです。特に中東アジアではこの星座を旧約聖書中の「ノアの箱舟」に見立てていたようです。確かにギリシャより緯度の低いこれらの地方では、水平線上に浮かぶ巨大な船のイメージを創り上げることも難しくなかったでしょう。アルゴ座は、こうした地域のどこかにそのルーツがあるのでしょう。
現在でも、北緯20度から30度くらいの場所であれば、春の宵、南の水平線上に巨大な帆船が浮かんでいる姿を見ることができます。

NO22 「大きな双子座(マシュ・タブ・バ・ガル・ガル)」(メソポタミア)
今月の「古代人からのメッセージ世界編」は現在のふたご座のルーツにあたる古代メソポタミアの星座「大きな双子座」です。
世界各地に伝わる星の伝承を見ると、カストル・ポルックスという接近して見える2つの明るい星を1対とみなすケースが多いことに気づきます。現在使われている星座のルーツがある古代メソポタミア地方では、既に、この1対の星を「大きな双子(マシュ・タブ・バ・ガル・ガル)」と呼んでいました。ところが、この大きな双子のモデルを調べていくと意外なことに気づきます。
この双子のモデルはメソポタミアを代表する「マルドゥーク(Marduk)」と「ナブー(Nabu)」という神とされていますが、実はこの2人、神話上では双子ではないのです。マルドゥークはメソポタミア神話の最高神の「嵐の神」で、ペルセウス座の原型にもなっていることは、以前のこのコーナーで紹介いたしました。マルドゥークは最高神ということもあり、メソポタミアでは、惑星の木星やぎょしゃ座のカペラも「マルドゥークの星」と呼ばれていたようです。
一方の「ナブー」ですが、この名はアッカド語の「輝くもの」という意味があり、知恵、文学、学術の神、書記の守護神、ボルシッパの都市神であり、ナビウム・ネボとも呼ばれています。関連ある天体としては、水星が「ナブーの星」と呼ばれていました。
さてこのふたご座のルーツとなる2人、「双子」ではなく、マルドゥークの子がナブーという「親子」関係ではないかといわれているのです。メソポタミア神話はギリシャ神話などと比べるとまだまだわかっていないことが多いのですが、「大きな双子」の星座が「大きな親子」だったというのは、実におもしろい話です。

NO21 「昴(すばる星)と畢(あめふり星)」(日本)
亀を助けて竜宮城にいった浦島太郎のお話はみなさんもよくごぞんじでしょう。浦島太郎のお話は「日本書紀」をはじめ「万葉集」など様々な形で伝えられています。鎌倉時代に書かれた「続日本紀」の巻12にも浦島太郎の長い話が載せられています。その浦島太郎のお話におうし座の星が登場することはあまり知られいないでしょう。
たいへんハンサムだった浦島太郎が小舟にのって釣りに出かけたところ、三日三晩全く釣れません。ただ、5色の亀が釣れたので不思議に思って船に置いておくて寝ていると、亀がたちまち美しい女の人に姿を変えました。「私は亀姫です。一緒に竜宮城に行きましょう」といわれ浦島太郎がついていくと世にも美しい島につき大抵宅の門前までやってきました。「ちょっとまっていてください」と言われ門前に立っていると七人の子供が現れ、「亀姫さまの夫がいる」といって去っていきました。続いて、八人の子供がやってきて同じことを言って去っていきました。いぶかっていると、亀姫が現れ、「先ほどの七人の子は昴星(すばるぼし)、八人の子は畢星(あめふりぼし)です」と答えたそうです。
今でいうおうし座のプレアデス星団が昴星、ヒアデス星団が畢星にあたります。