NO46 「ホルス」(エジプト)
今月の古代人のメッセージは前回に引き続き、木星のエジプト名「ホルス」です。
 洋の東西を問わず、惑星はその文明で信仰されてきた神々の名前で呼ばれることが多かったのですが、その中でも木星は中心的な役割を果たす主神の名前がついています。
 これは古代人たちにとって、恒星の中を謎めいた運行で移動していく惑星が、古代人の神々に対して抱いていたイメージに近かったことが原因と考えられます。惑星の謎めいた運行が、地上の人間たちの運命を変えていくと考えたのです。その中で木星は、金星に次ぐ明るさであること、また12年の周期で重々しく運行することが、神々のリーダーのイメージに近かったのでしょう。
 その中でエジプトの「ホルス」は、本来、主神であったオシリスと、イシスの間に生まれた一人息子の名でした。父のオシリスはホルスが生まれる前に、弟である悪神セトのたくらみにより命を失いました。悪神セトの目を逃れるために、幼いホルスは母であるイシスとともにケミスの森に身を潜め、父の敵討ちの時を待つことになりました。
 やがて成長したホルスは、父の敵討ちの戦闘を開始し、長い戦いの末にセトをうちほろぼし、主神の地位を勝ち取ったのです。
 ちなみに歴代のエジプト王はこのホルスの子孫であると称して、現人神として君臨していました。

NO45 「木星」(中国
 今月の古代人のメッセージは木星の中国での名称「木星」です。
 現在、私たちの木星という呼び名は中国の五行思想、つまり万物を木・火・土・金・水という5大要素からきているとみなす考え方から命名されたものです。
 ただ「木」といっても、「樹木」をさすのではなく、「青」というイメージカラーであらわされるものを「木」として位置づけていました。ただ、この場合の青は信号機の緑を青と呼んでいるように、現在の私たちが緑と呼んでいる色も青の中に含まれます。同じように「火」は赤、「土」は黄、「金」は白、「水」は黒をイメージカラーとしています。
 また五行の「木」は季節の春、方角の東、臓器の肝臓、四獣の青龍がその属性として位置づけられており、他の「火」「土」「金」「水」よりも一段高い位置づけがなされています。
 この五行思想を惑星に当てはめるとき、イメージカラーから5惑星中で赤っぽい星を火星、黄色がかった星を土星、太陽から離れないために見にくい星を黒として水星、ぎらぎらと白く光る星を金星、残った青白くどっしりとした光で輝く星を木星としたのかもしれませんが、木星を「木星」としたのには他に大きな理由があったように思われます。
 それは、天球上の見かけの運行です。同じ明るい惑星の金星とくらべて、約12年をかけてゆっくりと天球を一周するという木星の運行の重厚さは、古代の中国人が尊いとするイメージにぴったりであったため、この星を五行の中の一段高いイメージの「木」としたというものです。
 古代の中国人はこの木星を重要視し、子、丑、寅・・・・」の十二支も木星の運行から誕生したといわれており、このことから木星の別名を「歳星」としたほどです。また古代の中国の人々は、木星の運行により引越し、結婚、新築、旅行を決めたというほど重要視していたそうです。

NO44 「参宿(しんしゅく)」(中国)
 今月の古代人のメッセージはオリオン座の中国名「参宿」です。
 古代中国では月の1日の天球上の動きにあわせて、天の赤道周辺に28宿という星座(正確には「星宿」)を作りました。その中で「参宿」はオリオンの三星とその周りを取り囲む4星、つまりオリオン座を現していました。
 「参宿」から来た言葉に「参商」という言葉があります。これは「参宿」と夏の星座さそり座にあたる「商」(一般的には「心」と呼ぶ)が天球上で反対側にあり、一方が昇れば、他方が沈むということで、同じ星空にみえないことから、親しい人と遠くはなれて会わないでいるという例えに使われてきました。これはオリオン座とさそり座についてのオリオンが自分を刺し殺したさそりに会いたくないから顔をあわせないというギリシャ神話と混同されて、「参商」も会いたくないから会わないという例えだと思い込まれているようですが、少なくとも中国の詩人「杜甫」の漢詩の中では「会いたいけど会えない」という例に使われています。
 中国の星座は星の配置と命名が関連ない場合が多いのですが、この「参宿」はおそらく「オリオンの三ツ星」から数字の3も意味する「参」の文字があてられたのでしょう。

NO43 「ジェプロ座」 (マーシャル諸島)
今回の星空の招待状は前回に引き続き、プレアデス星団にちなんだ天体名で太平洋のど真ん中にあるマーシャル諸島につたわる名称「ジェプロ座」について紹介します。
お話の登場人物はリゲタネル ( ぎょしゃ座 のカペラのこと)という母親と、多くの息子たちなのですが、特に名前の出てくるのは、一番上のジュムール ( さそり座 のこと)と、 一番下のジェプロ(プレアデス星団のこと)です。あるとき、リゲタネルの息子たちは星の世界の王を決めることになりました。そこは太平洋上の島らしく、舟のレースで決着をつけることになったのですが、そのとき母のリゲタネルは息子たちに大きな七つの道具と自分を一緒に乗せてくれるようにたのみました。
舟が重くなり遅くなることをいやがった息子たちは、母の希望をきいてくれませんでしたが、末っ子のジェプロは、母とその荷物を乗せることを快諾しました。
レースが始まりましたが、ジェプロは母の乗せた道具を据え付けるために時間がかかってなかなか出航できませんでした。ところが母の支持どおりに道具を据え付けると、舟は漕がなくとも飛ぶように進むではありませんか!母が乗せた道具は帆具で、それを据付ることでカヌーがヨットにかわったのです。
先頭を走っていた長兄のジュムールはレースの勝者になるために、弟のジェプロと母のリゲタネルを蹴落として、ジェプロの舟を強奪しました。しかし、母のリゲタネルは舟から落ちるときに帆柱の楔を抜いていたのです。そのため、ジュムールは倒れてくる帆柱を背中で支えるために、レースどころではなくなって、結局、泳いで島に向かったジェプロがレースの勝者になり星界の王となりました。また、その日から背中が曲がってしまった兄のジュムールは、王(おう)となった弟(おとうと)と顔(かお)をあわせるのがいやで、背中がまがったまま、夏の星座の領域で星座となったそうです。それで、 ジェプロ (プレアデス星団) が東の空から昇ってくると、 ジュムール ( さそり座(ざ) ) は急いで(いそ    )西(にし)に沈む(しず )のだということです。

NO42 「ハトホル(Hathor)の星」 (エジプト)
今回の古代人からのメッセージは、古代エジプトの愛と豊穣の女神で多産と受胎を司る「ハトホル」の星です。ハトホルの星とはプレアデス星団のことで、角の間に太陽を表す円盤を持った牝牛、あるいは太陽の円盤をつけた角を持つ女神として描かれています。古代エジプトでは多産と受胎を司る女神ハトホルが 人間の魂を養う女神としての役割を果たすために化身した七つの姿「七人のハトホル」を現したのがプレアデス星団だと考えられていました。「七人のハトホル」は 新生児が誕生すると そのゆりかごの上に身体をかがめ、赤子の運命を宣告するのだといわれています。これはプレアデスの星々がにぎやかに輝く様子にふさわしいエピソードといえます。またハトホルが牛の角を持つのは、古代エジプトでもおうし座の領域が現在と同じ「うし」の星座であったこと関係があるのかもしれません。
ハトホルは太陽神ラーの娘でエジプト神話の主役の一人ホルスの妻で人気のある女神でした。歴代のエジプト王はこのホルスの血をひいていることを王権の根拠としていたことから、エジプト王妃たちはホルスの妻であるハトホルの分身として祭祀をとりおこなっていました。

NO41 「アルナの星(Aruna)」 (インド)
 今回の古代人からのメッセージは、前回に引き続き、インドの星座天体名で「アルナ」です。アルナとは金星を意味する名前で、インド神話に登場する神です。
アルナはインド神話の三人の主神の一人ブラフマのひ孫にあたります。アルナとは払暁の「紅色」を意味し、太陽神(スールヤ)が生まれる前に世界を照らしていたといわれています。これはまさに明けの明星として輝く金星のイメージそのものです。アルナ自身はどのような姿をしていたかはわかっていませんが、卵から生まれたとされていることと、弟であるガルーダは身体が白面金身の人間で頭と嘴、赤い翼と爪は鷲の姿といわれていることから、鳥をモチーフにした神様だったと考えられます。
アルナは母であるヴィナターが時の熟する前に卵を割ってしまったために不完全な状態で誕生してしまったとされています。ヴィナターはこの過ちの報いとして蛇族の奴隷となってしまったといわれています。アルナは不完全な状態で天上にあがり、後に太陽神の御者になったとされています。
アルナのイメージは仏教の中に取り入れられ、「明星菩薩」「明星天子」として信仰の対象として日本へも伝わりました。鎌倉新仏教である浄土真宗、日蓮宗などでは迷妄をはらう菩薩様として重要な位置づけがされるようになります。ただアルナはもともと男性だったのですが、シルクロードを通って中国に伝わる過程で、紅の鳥に乗る女性の姿となり、さらに星曼荼羅の中では琵琶を引く女性の姿へと変わっていき、原型の鳥をモチーフにした男性神のイメージを失っていきました。