FIRST 最先端研究開発支援プログラム 原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡の開発とその応用

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活動報告

助成金使途報告

年度毎の助成金の使途

平成24年度

1.平成24年度における研究の実施状況

日立製作所が担当する本体開発は平成23年度に引き続き原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡の立上と基本的な性能の確認を行い、収差補正器を搭載して真空排気と制御系の接続を完了する予定であったが、高電圧の安定印加実験実現とその確認に注力することとなった。要素技術開発では、収差補正器単体の製作を完了させるとともに、試料ステージの製作を完了した。また立体像観察用ホルダーを設計した。また理化学研究所が担当する予備実験(応用技術開発)では、新たな干渉技術を確立するとともに、ナノ領域電磁場観察を実施した。
以下に各項目の実施状況を記載する。

本体開発

  • (1) 高電圧ケーブルの耐電圧(≧1.2MV)対策(平成24/4-平成24/7)
    平成24年2月の高電圧ケーブルの放電発生に伴い、平成24年度も引き続き放電原因の究明と耐電圧向上対策を実施した。電界分布のシミュレーション、高電圧印加部に新たな電極を追加することで電界集中を回避するなどの対策を行い、高電圧印加試験により1.2MVが印加できることを確認した(平成24/7に完了)。並行して1.2MV高電圧の放電現象のメカニズムを再現するためのミニチュアモデルを製作して、放電を誘発させる実験および放電対策要の新電極取付けの効果検証を繰り返し実施し、放電メカニズムおよび対策の効果を確認した。(平成25/3に完了)。
    上記1.2MV耐電圧対策と並行して、安定して確実に印加できる400kVの加速電圧により電子顕微鏡としての最低限の機能(レンズ電流値の設定、アライナー電流値の設定、倍率の設定等)の調整を実施した(平成24/7に完了)。
  • (2) 1.2MV高電圧における安定度の評価と超高安定度化(平成24/8-25/2)
    今回の開発の重要な要素の一つである10-7オーダの高電圧安定度を検証した。従来性能より一桁安定度を向上するため、高電圧が印加されるブリーダ抵抗や基準抵抗などの部品に新規開発品を適用している。各部品の実装状態での長期安定性の評価が当初の計画以上に必要となった。さらに評価の過程で、抵抗モジュール部品の製作工程改善や加圧下での耐久試験など当初予測していなかった作業が発生し、多くの時間と費用を要したが平成25年3月に安定度3x10-7を確認した。

要素技術開発

  • (1) 収差補正器
    平成24年度末までに単体製作および評価を完了した。
  • (2) 試料ステージ
    超高分解能観察用ステージは、ほぼ同一の設計のものを平成23年度中に2セット並行して製作し、電子顕微鏡の試料室を模擬した真空チャンバーに装着し、レーザ測長器により制御精度やドリフトなどの基本的性能を評価した(平成24/4-平成24/6)。
    これにより多くの問題点が判明したため問題点の抽出と改造を引き続き模擬評価チャンバーで評価した。これらの知見から基本構造の再設計と再製作を行い、基本構造部を既存の1MV超高圧電子顕微鏡に搭載して評価を行った(平成24/7-平成25/3)。
    最終目標性能は20pmの格子分解能取得であるが、基本構造部の既存1MV超高圧電子顕微鏡評価においては40pm以下の格子像取得をマイルストーンとし、平成25年1月にこのマイルストーンを達成した。それを踏まえ、各種電子制御機能を備えたフルスペック機を製作し、性能評価に着手した(平成24/9-平成25/3)。

予備実験(応用技術開発)

  • (1) ホログラフィー観察の機能・性能の拡大
    ホログラフィー観察可能な視野は電子波の横方向の可干渉距離により制約されていたが、この問題を解決するため分離照射電子線ホログラフィーを開発した。電子波を二分割し試料と参照領域を分離して照射することでこれまで観察することが出来なかった領域での高精度位相検出が可能となった。これにより電子線ホログラフィーの実用化以来、長い間求められてきた観察領域の拡大が実現された。本技術は広範な材料での電磁場解析に有効な手段として世界的な普及が期待される。(平成24/4-平成25/3)(本研究成果はApplied Physics Letters に掲載され、2012年7月23日号の表紙を飾った。)
  • (2) ナノ領域電磁場観察技術
    磁化分布・磁区構造のナノスケール観察による基礎科学および産業への貢献を目的として、300kV電子顕微鏡・1MV電子顕微鏡を活用し以下の研究開発を行った。
    将来の装置活用に向けた応用実験のためには、研究対象の選定および最適薄膜試料作製技術・実験データの高速処理技術・解析技術の向上が必須であり、300kV及び1MV電子顕微鏡を用いた実験によりこれらの目標達成の見通しを得た。詳細を下記する。
    • ・ ナノスケールのスピン渦(スキルミオン)観察:ローレンツ顕微鏡法を用いたその場観察により、カイラル磁性結晶に見られるナノスケールの磁気構造の磁場・温度変化に伴う挙動を調べた。特にMnSi(周期18nm、駆動電流が通常より6ケタ低い)薄膜試料では、バルク試料に比べ、より広い磁場・温度範囲でスキルミオン相が安定であることを始めて明らかにした。(理研との共同研究)。
      (本研究成果は Nano Letters に掲載された)
    • ・ ナノ界面磁性究明:ホイスラー(L21型)のNi50Mn25Al12.5Ga12.5合金中のナノメートルサイズの逆位相境界(APB)での磁化状況解析に電子線ホログラフィーが有効であることを示した。特に、APBにピニングされた磁壁の幅・APBの磁束密度の計測が始めて可能となった。このようなナノ領域での磁性の究明・解析は、サイエンスおよびエンジニアリングに大きな波及効果が期待される。(東北大との共同研究)(本研究成果はAdvanced Functional Materialsに掲載された)
    • ・ 磁気デバイスの磁気特性評価:1MV電子顕微鏡の高い透過能を活用して、垂直磁気記録用磁気ヘッドの書き込み素子(膜厚250nm)中のドメイン構造を電子線ホログラフィーにより明らかにした。一方、読み込み素子であるトンネル磁気抵抗(TMR)スピンバルブヘッドの磁化分布の可視化に成功し、外場に対する磁気応答の精密計測が可能となった。(TDK・東北大との共同研究)(本研究成果は、J. Electron Microscopyと Small に掲載された)

2.収支状況の概要

(単位:円)

助成金の受領状況(累計) 合計 経費A 経費B 経費C
1. 交付決定額 5,000,000,000 4,366,000,000 197,000,000 437,000,000
2. 既受領額(前年度迄の累計) 3,705,233,000 3,294,367,000 74,660,000 336,206,000
3. 当該年度受領額 898,599,000 779,255,000 41,094,000 78,250,000
4. (=1-2-3)未受領額(累計) 396,168,000 292,378,000 81,246,000 22,544,000
5. 既返納額(前年度迄の累計) 0 0 0 0

(単位:円)

当該年度の収支状況 合計 物品費 旅費 謝金・
人件費等
その他
経費A 1. 収入 1,345,697,224 1,130,686,701 20,285,882 147,859,850 46,864,791
2. 執行額 1,232,521,606 1,042,188,216 9,471,566 140,474,284 40,387,540
3. (=1-2)未執行額 113,175,618 88,498,485 10,814,316 7,385,566 6,477,251
経費B 1. 収入 52,251,115 -268,058 9,815,462 35,835,484 6,868,227
2. 執行額 29,196,514 453,537 206,940 27,084,642 1,451,395
3. (=1-2)未執行額 23,054,601 -721,595 9,608,522 8,750,842 5,416,832
経費C 1. 収入 76,705,882
2. 執行額 73,201,233
3. (=1-2)未執行額 3,504,649
総収入
(経費A+B+Cの1の合計)
1,474,654,221
総執行額
(経費A+B+Cの2の合計)
1,334,919,353
総未執行額
(経費A+B+Cの3の合計)
139,734,868

(単位:円)

当該年度返納額 合計 物品費 旅費 謝金・
人件費等
その他
経費Aにおける返納額 0 0 0 0 0
経費Bにおける返納額 0 0 0 0 0
経費Cにおける返納額 0
総返納額 0
  • ※ 収入=前年度迄の未執行額+当該年度受領額+当該年度受取利息
  • ※ 当該年度返納額:前年度の執行状況確認通知書に基づき、振興会へ返納した金額
  • ※ 経費A:研究開発事業経費、経費B:研究開発支援システム改革経費、経費C:研究環境改善等経費
平成23年度

1.平成23年度における研究の実施状況

日立製作所が担当する本体開発は平成22年度に引き続き原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡鏡体、高圧電源、レンズ電源、高圧ケーブル、付属装置等の製作を行った。平成23年度中に本体のすべての部品、および付属装置の主要部品を完成させた。要素技術開発では、収差補正器を除く部分を組み合わせた。また理化学研究所が担当する予備実験(応用技術開発)では、開発予備実験と応用技術実験を概ね当初の計画通り推進した。ただし1.2MVを印加する高電圧ケーブルが1MV以下の電圧で放電するというトラブルが発生したため、原因究明と対策のため一部の工程の計画変更を行い、2か月程度の遅延が生じた。すなわち、当初計画では、平成23年度中に電子銃から電子ビームを放出し電子顕微鏡としての動作確認および性能評価に着手する予定であったが、平成24年3月末時点で電子ビームの放出は未達成である。この遅れは、平成24年度に挽回する計画である。具体的には、平成24年5月から400kVで電子顕微鏡の調整を行い、並行して実施する高電圧ケーブルの放電トラブル対策を行う。1.2MVでの稼働開始は平成24年7月からの予定である。
以下に各項目の実施状況を記載する。

本体開発

  • (1) 照射系(加速管、照射系):上下22段計44段の加速管を組立て、各段間毎に35kVの耐電圧試験を実施した。各段の耐電圧をクリアした。実使用条件は各段30kV以下である。なお、全段合計で1.2MVで超高電圧が印加できることを確認する計画であったが、前述のケーブル放電トラブルにより平成23年度末時点で未達成である。
  • (2) 結像系(対物、中間、投射レンズ):収差補正器を考慮した磁路を備えた対物レンズ、およびホログラフィーによる原子像観察を実現する中間レンズ、投射レンズの部品製作、および組立を完了した。
  • (3) レンズ電源:対物レンズ電流安定度10-7以下を得るために、シンプルな回路構成でかつ、温度係数の選別された部品を使用した上で温度制御を行った超高安定レンズ電源を完成させ、その安定度を評価中である。
  • (4) 高圧電源:新規開発の1.2MV対応の、芯線に抵抗値を有するケーブルが完成した。国内ケーブルメーカにて製作し、製作工場での耐電圧試験では1.2MVの超高電圧を安定に印加できることを確認した。しかしながら、ケーブルを電顕建屋に実装しての課電試験中に1MV以下の電圧で2回連続して放電が発生した。原因はケーブル先端部の電位不安定性に起因するものと推定され、ケーブル保持部分に追加の電極を設ける対策方針を決定した。対策実施と再現実験を進め、平成24年6月に対策が完了する予定である。その影響で、バックアップとして製作中の2セット目のケーブルの納入は平成24年6月以降となることになった。
  • (5) 圧力タンク、吊架台などの大型構造物や、付属装置のうち絞り機構やカメラなどの電子顕微鏡として必須の付属装置を完成させ、電顕建屋に実装した。
  • (6) 電子顕微鏡を制御するシステムおよびソフトウェアの主要部分が完成した。なお制御システムの一部およびソフトウェアは平成24年度以降の電子顕微鏡調整作業と並行してデバグおよび修正を加えて行く。
  • (7) 電子顕微鏡の排気系の製作、組立を完了した。

要素技術開発

  • (1) 高輝度電子銃:平成22年度の要素技術開発で得た成果を踏まえ、加速管の収差を抑えて高輝度電子線を得るための磁界重畳型電子銃、極高真空を得るための高温ベーキングに耐えられる耐熱コイル、高電圧1.2MV上で電子源をミクロン精度で動かし軸調整をするための制御信号光伝送の微動機構および電子源固定機構が完成した。また従来の磁界重畳型電界放出電子銃の電子源近傍に非蒸発ゲッターポンプ(NEGポンプ)を配置した電子銃を製作し、単体評価において真空度10-10 Pa台を確認し、8時間の電流低下10%以内を確認した。当初計画では、この電子銃を本体に搭載し電子顕微鏡としての動作確認および性能評価に使用する予定であったが、前述の高圧ケーブル放電トラブルの対応のため平成23年度末時点では電子銃の本体への搭載は未達成であった。一方、バックアップ用の二台目の電子銃を立ち上げるための真空排気装置の製作を完了し、二台目の電子銃の主要部品は完成した。
  • (2) 収差補正器:分解能0.04nmを実現するべく、TEM用広視野のとれる球面収差補正器を開発する。超高分解能観察とローレンツ顕微法を同じ対物磁路で両立できる設計にする。平成23年度は収差補正器の詳細設計を完了した。平成24年後半の完成を目標にドイツで製作を進める。
  • (3) 試料ステージ:0.04nmの分解能を実現するためにドリフト量を60pm/min以下程度に抑えたステージの開発を行う。そのために平成23年度は、前年度に設計した図面に基づきプロトタイプを試作して評価を開始した。平成24年度前半の電子顕微鏡本体評価では上記試作プロトタイプを使用する。なお、本ステージは電子顕微鏡の分解能を決める重要な部品の一つであり、今回の高い目標を実現するため既存の超高分解能電子顕微鏡による実機評価を追加することになった。そのための評価専用の対物レンズ一式を製作することとし、その部材の購入を完了し製作中である。また、立体像観察対応の三次元試料ホルダーについては平成23年度は二方式を並行して検討を行った。方針決定は平成24年上期の予定である。
  • (4) 検出系:1.2MV電顕での高精度位相検出用として、画素数4kx4kの高分解能CCDカメラが完成し、電子顕微鏡本体に取り付けた。また、電子ビームのエネルギー分析装置(GIF)も完成し、電子顕微鏡本体に取り付けた。

予備実験(応用技術開発)

開発予備実験

  • (1) ホログラムの高精度位相検出にむけて、前年度に開発した新アルゴリズムで動く縞走査法を改良し、実験的に真空領域(位相変化なし)の位相再生を行い、その標準偏差(位相再生ノイズ)が1/4000波長以下であることを確認した。これは、1/1000波長に相当する位相変化が検出可能であることを示している。また、針先端部近傍の電場による位相変化も実測し、位相再生ノイズが1/4000波長以下であることを確認した。(本研究成果はUltramicroscopyに掲載された。)。
  • (2) 1/1000波長以下を達成するために必要な装置の条件を、シミュレーションと(1)で議論した実験により検討した。装置的に必要な安定度を達成することが困難と考えられていた電子顕微鏡の電子線の強度や干渉縞コントラストの変動に関しては、画像処理によりこれらの装置変動の影響を補正する方法を開発した。
  • (3) アモルファスのタングステン(W)を膜厚5~10nmまで薄膜化して、既存の300kV電子顕微鏡で予備実験をした結果、1.2MVホログラフィー電子顕微鏡が完成したときに原子分解能での観察が可能となることを確認した。
  • (4) 高いS/N比でホログラムを得るために必要な条件を検討した。まず、ホログラムを得るための参照波が観察位置の近傍を通るような試料形状を求めた。さらにホログラム記録媒体として使用しているCCDカメラの読み出しノイズおよび画素信号の検出器面内方向のボケの影響を減少させるために、ダイレクトカメラ採用の検討を行った。さらに、電子線強度とホログラムの干渉縞コントラストを両立させうる光学条件を求めた。
  • (5) 0.04nm点分解能を実証するため必要な試料物質、試料厚み、試料作製方法を検討した。特にタングステンを用い、薄膜化(10nm以下)することが重要であることが分かった。今後は観察手法の検討を行う。

応用技術実験

  • (1) シリコンピラー上に分散した2nmのPt(白金)のナノ粒子を開発した安定性のよい三次元試料ホルダーに搭載し、三次元位相像の観察を行った。三次元的な空間分解能の評価方法を検討し、空間分解能のチャンピオンデータである1.5nmを得た(この研究成果はJ. Electron Microscopy誌に掲載され、Editor's choiceに選ばれた)。本三次元計測技術は確立したので、電子顕微鏡本体開発部隊(日立製作所)に技術移管した。

2.収支状況の概要

(単位:円)

助成金の受領状況(累計) 合計 経費A 経費B 経費C
1. 交付決定額 5,000,000,000 4,366,000,000 197,000,000 437,000,000
2. 既受領額(前年度迄の累計) 1,256,930,000 1,103,410,000 43,080,000 110,440,000
3. 当該年度受領額 2,448,303,000 2,190,957,000 31,580,000 225,766,000
4. (=1-2-3)未受領額(累計) 1,294,767,000 1,071,633,000 122,340,000 100,794,000
5. 既返納額(前年度迄の累計) 0 0 0 0

(単位:円)

当該年度の収支状況 合計 物品費 旅費 謝金・
人件費等
その他
委託費
委託費以外
経費A 1. 収入 2,791,004,480 2,482,060,840 16,652,474 171,442,280 0
120,848,886
2. 執行額 2,224,574,309 1,940,749,850 5,527,008 153,391,120 0
124,906,331
3. (=1-2)未執行額 566,430,171 541,310,990 11,125,466 18,051,160 0
-4,057,445
経費B 1. 収入 38,978,486 -141,052 2,761,193 27,693,142 0
8,665,203
2. 執行額 27,824,677 132,961 269,000 22,917,028 0
4,505,688
3. (=1-2)未執行額 11,153,809 -274,013 2,492,193 4,776,114 0
4,159,515
経費C 1. 収入 246,546,188
2. 執行額 248,091,613
3. (=1-2)未執行額 -1,545,425
総収入
(経費A+B+Cの1の合計)
3,076,529,154
総執行額
(経費A+B+Cの2の合計)
2,500,490,599
総未執行額
(経費A+B+Cの3の合計)
576,038,555

(単位:円)

当該年度返納額 合計 物品費 旅費 謝金・
人件費等
その他
委託費
委託費以外
経費Aにおける返納額 0
経費Bにおける返納額 0
経費Cにおける返納額 0
総返納額 0
  • ※ 収入=前年度迄の未執行額+当該年度受領額+当該年度受取利息
  • ※ 当該年度返納額:前年度の執行状況確認通知書に基づき、振興会へ返納した金額
  • ※ 経費A:研究開発事業経費、経費B:研究開発支援システム改革経費、経費C:研究環境改善等経費
平成22年度

1.平成22年度における研究の実施状況

日立製作所が担当する電子顕微鏡本体開発及び要素技術開発は当初の計画通り、設計から製作の段階に概ね移行した。また、理化学研究所が担当する予備実験(応用技術開発)では、開発予備実験と応用技術実験を概ね当初の計画通り推進した。ただし平成23年3月11日の震災により、本体開発においては高圧ケーブルをはじめとする各部位の製作に遅延または遅延の恐れが生じている他、応用技術開発においても実験装置に不具合が生じるなどしており、プロジェクト研究計画一部に計画遅延が生じた。

  • (1) 本体開発は、原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡の主要部分(加速管、電子顕微鏡鏡体、対物レンズ、レンズ電源、高圧電源、高圧ケーブル、圧力タンク・鏡体吊架台等大型部品、制御システム、真空排気系)について設計を完了し、製作中。
  • (2) 要素技術開発については下記の通り実施した。
    • a) 高輝度電子銃:予備実験により高安定で高輝度の電子銃実現の見通しが立った。設計が終了し現在製作中。
    • b) 収差補正器:光学系シミュレーションにより補正器の概念設計を完了し詳細設計中。
    • c) 試料ステージ:0.04nm分解能を達成するプロトタイプの設計が完了部品を加工中。
    • d) 検出系:高精度位相検出用4kx4kカメラは、設計、製作中。また、当初計画になかったエネルギー分析器を導入することとし、業者にて製作中である。
  • (3) 予備実験については、縞走査法等の高精度で位相検出するソフトウェアの開発に向けた開発予備実験と応用技術実験を行い、原子レベルの3次元再構成実現のために必要な、試料回転精度、回転軸の安定精度、画像取り出し条件を割り出した。また、1/1000波長オーダーの位相変化を捉えるために必要な条件について確認した。

2.収支状況の概要

(単位:円)

助成金の受領状況(累計) 合計 経費A 経費B 経費C
1. 交付決定額 5,000,000,000 4,366,000,000 197,000,000 437,000,000
2. 既受領額(前年度迄の累計) 481,710,000 424,670,000 21,570,000 35,470,000
3. 当該年度受領額 775,220,000 678,740,000 21,510,000 74,970,000
4. (=1-2-3)未受領額(累計) 3,743,070,000 3,262,590,000 153,920,000 326,560,000
5. 既返納額(前年度迄の累計) 0

(単位:円)

当該年度の収支状況 合計 物品費 旅費 謝金・
人件費等
その他
経費A 1. 収入 1,103,491,954 668,253,780 16,340,571 145,627,662 273,269,941
2. 執行額 503,478,979 358,244,074 5,086,339 98,897,291 41,251,275
3. (=1-2)未執行額 600,012,975 310,009,706 11,254,232 46,730,371 232,018,666
経費B 1. 収入 43,085,208 4,490,000 3,010,525 24,193,233 11,391,450
2. 執行額 35,687,341 4,571,035 209,986 25,248,729 5,657,591
3. (=1-2)未執行額 7,397,867 -81,035 2,800,539 -1,055,496 5,733,859
経費C 1. 収入 110,447,773
2. 執行額 89,671,123
3. (=1-2)未執行額 20,776,650
総収入
(経費A+B+Cの1の合計)
1,257,024,935
総執行額
(経費A+B+Cの2の合計)
628,837,443
総未執行額
(経費A+B+Cの3の合計)
628,187,492

(単位:円)

当該年度返納額 合計 物品費 旅費 謝金・
人件費等
その他
経費Aにおける返納額 0
経費Bにおける返納額 0
経費Cにおける返納額 0
総返納額 0
  • ※ 収入=前年度迄の未執行額+当該年度受領額+当該年度受取利息
  • ※ 当該年度返納額:前年度の執行状況確認通知書に基づき、振興会へ返納した金額
  • ※ 経費A:研究開発事業経費、経費B:研究開発支援システム改革経費、経費C:研究環境改善等経費
平成21年度

1.研究の実施状況

平成21年度(平成22年3月10日~3月31日)は、主に準備段階として下記項目を実施した。

  • (1) 原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡は、非常に大型の装置となるため本体を設置する建屋の規模を決定する必要がある。本体の大部分を占める照射系(加速管および電子銃)の概略寸法を算出することで設置する建屋の規模を決定した。
  • (2) 要求される高分解能を得るための電子レンズにはパーメンダーやパーマロイといった特殊かつ長納期の材料を多量に使用する。これらの材料を納入可能な業者を抽出し、仕様や納期についての検討を行い見通しが立った。
  • (3) 本体製作用図面作製の参考にするため、既存の1MVホログラフィー電子顕微鏡の3万点あまりの部品の全図面データを入手し分類、整理した。
  • (4) 本開発の重要な要素技術の一つである高安定な高輝度電子銃を実現するための非蒸発ゲッターポンプ(NEGポンプ)評価実験の計画立案とその実験のためのツール選定を行った。
  • (5) 0.04nm分解能とローレンツ顕微法での分解能0.2nmという超高分解能実現のための収差補正器の構造の検討を開始した。
  • (6) ホログラム位相再生の限界をテストするために、既存の1MVホログラフィー電子顕微鏡に取り付けて実験するCCDカメラの選定を開始した。
  • (7) 原子レベルの3次元像構成に必要な1/1000波長オーダーの位相変化を捉えるため、新たな電子バイプリズムホルダーの設計・試作を開始した。
  • (8) 応用実験では、ナノサイズの微弱な磁場を検出する予備実験を行なった。

2.収支状況の概要

(単位:円)

助成金の受領状況(累計) 合計 経費A 経費B 経費C
1. 交付決定額 5,000,000,000 4,366,000,000 197,000,000 437,000,000
2. 既受領額(前年度迄の累計) 0 0 0 0
3. 当該年度受領額 481,710,000 424,670,000 21,570,000 35,470,000
4. (=1-2-3)未受領額(累計) 4,518,290,000 3,941,330,000 175,430,000 401,530,000

(単位:円)

当該年度の収支状況 合計 物品費 旅費 謝金・
人件費等
その他
経費A 1. 収入 424,670,000 335,870,000 8,750,000 51,270,000 28,780,000
2. 執行額 0 0 0 0 0
3. (=1-2)未執行額 424,670,000 335,870,000 8,750,000 51,270,000 28,780,000
経費B 1. 収入 21,570,000 1,250,000 1,550,000 15,550,000 3,220,000
2. 執行額 0 0 0 0 0
3. (=1-2)未執行額 21,570,000 1,250,000 1,550,000 15,550,000 3,220,000
経費C 1. 収入 35,470,000
2. 執行額 0
3. (=1-2)未執行額 35,470,000
総収入
(経費A+B+Cの1の合計)
481,710,000
総執行額
(経費A+B+Cの2の合計)
0
総未執行額
(経費A+B+Cの3の合計)
481,710,000
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